後輩くんの挑戦状 ~僕に惚れてもらいます~
第9章 詫びのしるし
隣の彼がシートベルトをするのを確認して発車する。
三角角地の駐車場から並行車にくわわるにはコツがいるが、それは何年も続けてきたこと──私はスムーズに道路に出た。
「私を説得するようにとの指令を受けたんでしょうけど、無駄だからね」
次の交差点で止まった時、私は口を開く。
「ばれていましたか」
「ハァ、藤堂さんってば諦めが悪い」
「珍しいですよね。先輩が藤堂先生の頼みを断るのって」
「…仕事なら引き受けるわよ、でも」
相変わらず遠慮のない視線を注いでくる葉川くんは、私から話しかけたことが意外だったのか声が明るくなった。
「──…でも、マラソン大会は論外だわ」
「事務所のメンバーで参加するのが規則だと先生は言ってましたけど?」
「そんな規則、横暴よ」
藤堂さんは朝からその話ばかりしている。
毎年この時期に開かれるリレーマラソン──今まで仕方なく参加してきたのを、今年になって私が断ったのが原因だ。