後輩くんの挑戦状 ~僕に惚れてもらいます~
第2章 藤堂建築アトリエ事務所
呼び鈴が鳴ったので、洗面所に向かう足を止めて引き返した。
午後に打ち合わせの予定は入っていないから、新規のクライアントだろう。
それか以前に担当した建物の施主か…。
「こんにちは」
ドアを閉めた所で立ち止まったままの相手に私から声をかけた。
来客はスーツを着た青年だった。
若い…学生?
入り口から動かないところを見るに、この事務所を訪れたのは初めてみたいだけれど…。
「どうぞ中に入って」
「……」
「……?」
相手は動こうとしない。
少し戸惑ったように見えたのは気のせいかしら。
…まさか、事務所を間違ったとか?
「ここは設計事務所よ。君は…大学生?」
「……」
「あの、大丈夫?」
しまった若干 苛立ってきた。
口調に出ないよう気を付けないと。クライアントの可能性もあるし、失礼があっては事だわ。
私が相手の反応を待っていると…
「……こんにちは」
その青年は、ニコーーっと顔に愛想を貼り付けて、妙に大人びた微笑みで返してきた。