後輩くんの挑戦状 ~僕に惚れてもらいます~
第11章 かつての男
それにしても不自然だった。
『 俺たちもう、終わりにしよう 』
私たちの別れはもっと険悪な雰囲気だったわけで、啓輔は私に愛想を尽かせていた筈だ。
『 …うんざりだよ 』
去り際に残されたその言葉は私の記憶にかろうじてとどまっている。
…なのに
今、目の前の彼から、黒々とした暗い印象は微塵も感じられない。
別れ際のことなんて忘れてしまったかのように
啓輔が醸し出す空気は好意的だった。
開いたり閉まったりを繰り返している自動ドアを背景に、彼は真っ直ぐ私を見ている。
「その……店に迷惑だから。そこ」
「あ、悪い」
声だって穏やかで、付き合いはじめてすぐの頃の彼だった。