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じゃん・けん・ぽん!!

第12章 探し物はどこですか?­

 しかし晃仁はたじろがなかった。
「ならば、普段は行かないところを思い出してみては」
「行かないところなんて――」
 ないわけではなかった。
「どうしたんですか」
 黙り込んだ学の顔を、晃仁が覗き込んでくる。
「いや――」
「心当たりがあるんですね」
「まあ」
「どこですか」
 学がわざと言葉を濁しているのを、知っているのか知らずにいるのか、晃仁はまったく遠慮の感じられない様子で問いかけてくる。やがて晃仁は、視線をあげて勝手に予想を始めた。
「先輩が普段は行かない場所というと――例えば、お寺とか」
 確かに普段は寺に行くことはない。そして今回も寺には行っていてない。学が否定すると、じゃあ美術館とか、と晃仁は間を置かずに言った。
「いや、俺はこう見えても美術館はたまに行くんだぞ」
「そ、そうなんですか」
 失礼しました――と晃仁は謝った。
「なぜ、謝る」
「い、いえいえ」
 晃仁はこれまでとは違う種類の笑みを浮かべ、こめかみを人差し指で掻いた。そして、
「それじゃあ、遊園地とか」
 と次の候補をあげた。まるで学からの追求を躱すかのような様子だった。いくらか気分が良くなかったが、学も深追いはやめた。
「遊園地は行っていない」
 だいたい、近くにそんな豪勢な娯楽施設はない。
「じゃあ――」
 ケーキ屋さんとか――と晃仁は言った。
 正解だった。
 学は顔をしかめて、声を出さずにゆっくりと一回だけ頷いた。すると晃仁は、自分で予想したにも関わらず、エッと驚きの声をあげた。そして目を見広げ、
「先輩、ケーキ屋さん行ったんですか」
 そう言った。
 その反応が嫌だったから、学は言葉を濁したのだ。なのに、それを当てられた上に、当てた本人が驚いているのだからもっと嫌になる。
「行っちゃ悪いか」
「いえ、なんか意外な気がしまして」
 そうだろう。柔道部に所属する大男がケーキ屋に入るなど、大方の人間が想像しないに違いない。
「じゃあ、そのケーキ屋さんに忘れてきたんじゃないですか」
 そうかもしれない。学は素直に頷いた。
「じゃあ、行ってみましょうよ」
 と晃仁は、顔の横で拳を握りしめた。なぜか学よりも張り切っているように見える。

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