じゃん・けん・ぽん!!
第12章 探し物はどこですか?
ノートを探しに行った店員が戻ってくればすぐに帰れるのに――と思い、学はケーキをひと口頬張った。
美味い――という言葉を学は飲み込んだ。程よい甘さが口の中に広がり、つい頬が緩みそうになるが、学はそれも我慢した。これまで柔道ひと筋で貫いてきた学の気性に、ケーキを食べて微笑むなど似合わない――学は自身でそう感じていたからだ。
別に誰かから揄われているわけではないというのに、なんだか恥ずかしくなった。学はそれを誤魔化すために、珈琲を啜った。黒くて苦い汁が、喉を通って胃に落ちていく。それでなんとなく落ち着いた。ちょうどそれと同時だった。
「お待たせしました」
声をかけられた。背後からだったが、控えめな声だったのでとくに驚きもせずに、学は振り返った。
店員が立っていた。胸元に、見覚えのあるノートを両手で抱えている。
「忘れ物なのですが、こちらのノートで間違いないでしょうか」
「それです!」
店員が差し出してきたそのノートを、学はひったくるように受け取った。そして礼もそこそこに、さっそく机の上に広げて中身を確認する。
計算式や図形が、細くて小綺麗な字で書かれていた。ちょっと丸みを帯びたその文字は、ノートの持ち主である祐子の、すらりとした細い体を想像させる。
「それが、先輩が借りていたノートですか」
目の前の晃仁が尋ねてきた。ケーキはすっかりなくなっている。
「これだ。間違いない」
と学は答えた。
「良かったですね!」
晃仁が屈託なくそう言った。この段階になっても、晃仁はまだどこか信頼の置けない人物ではないかと警戒している部分があった。しかし、ノートが見つかってからもその無垢な様子が変わらないところを見ると、本当に純粋に、力になりたかっただけのかもしれない。晃仁に対する学の信頼は、ほんの少しだけ深まった。
美味い――という言葉を学は飲み込んだ。程よい甘さが口の中に広がり、つい頬が緩みそうになるが、学はそれも我慢した。これまで柔道ひと筋で貫いてきた学の気性に、ケーキを食べて微笑むなど似合わない――学は自身でそう感じていたからだ。
別に誰かから揄われているわけではないというのに、なんだか恥ずかしくなった。学はそれを誤魔化すために、珈琲を啜った。黒くて苦い汁が、喉を通って胃に落ちていく。それでなんとなく落ち着いた。ちょうどそれと同時だった。
「お待たせしました」
声をかけられた。背後からだったが、控えめな声だったのでとくに驚きもせずに、学は振り返った。
店員が立っていた。胸元に、見覚えのあるノートを両手で抱えている。
「忘れ物なのですが、こちらのノートで間違いないでしょうか」
「それです!」
店員が差し出してきたそのノートを、学はひったくるように受け取った。そして礼もそこそこに、さっそく机の上に広げて中身を確認する。
計算式や図形が、細くて小綺麗な字で書かれていた。ちょっと丸みを帯びたその文字は、ノートの持ち主である祐子の、すらりとした細い体を想像させる。
「それが、先輩が借りていたノートですか」
目の前の晃仁が尋ねてきた。ケーキはすっかりなくなっている。
「これだ。間違いない」
と学は答えた。
「良かったですね!」
晃仁が屈託なくそう言った。この段階になっても、晃仁はまだどこか信頼の置けない人物ではないかと警戒している部分があった。しかし、ノートが見つかってからもその無垢な様子が変わらないところを見ると、本当に純粋に、力になりたかっただけのかもしれない。晃仁に対する学の信頼は、ほんの少しだけ深まった。