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幕末へ飛べ!歴史を修正せよ

第4章 紀州和歌山へ飛べ!

こちらは、黙って一礼。言葉をかけないのが作法。
もちろん小次郎ぎみは身分は部屋住みでも貴人なので、一礼さえしてはいけない。
本音と建前の使い分けが、難しい。

出発。
赴く間、話をしないのがしきたりである。都合がよい。

そして、水野左京大夫の屋敷に到着した。
城代家老の屋敷とはいっても、それほど豪邸ではない。門構えが大きめ、というだけである。

玄関へ。
先に自分佐助が入り先導するように、小次郎ぎみを上がらせた。
案内されて、奥座敷へ。改めて、大村小次郎の存在の重大さを噛みしめた。

暫し、待たされる。

小次郎ぎみは、本来上座である。
案内役から上座へ薦められたが、ここは敢えて辞した。ほとんど身一つで紀州にたどり着いた。
まずは遠慮し、しかるのちにおもむろに上座に就くのが礼儀というものだ。

自分佐助は、慣例に従い廊下に下がろうとした。
「あいや、しばらく。ご従者どのもどうぞ」
と小次郎ぎみと同じ奥座敷へと薦められた。
慌てて困惑するという態度を見せて
「あいや、あいや」
と固辞したが、どうぞどうぞとしつこい。
この場合、あまりに断り続けるのはかえって礼儀に反する。仕方なく
「されば」
と、小次郎ぎみの左斜め後方に畏(かしこ)まって着座した。

小次郎ぎみのようすは、意外とリラックスしているようだ。ただ場が場だけに、畏(かしこ)まったほうがよいのだが。

待っている間、自分佐助は、室内をつぶさに観察した。
家老屋敷への歴史的な興味もあったが、最大の関心事はいざとなったら逃げられるかということだ。
偽者と疑われて逃げる場合と、水野が裏切ったため逃げる場合とが、ある。

天井の低さを見る。
刀を振り上げられるか。天井が高いときは、斬られる危険がある。
ここの天井は、低かった。いきなり斬られることは、ないだろう。

しかし水野が居合い抜き(座ったまま刀を抜いて相手を斬ること)の場合は、避けられない。
刀を右に置くのが対面したときの作法だが、安心はできない。
左手で抜ける左拵(こしら)えの刀は、当時あまり多くないが、紀州の家老たるもの、持っている可能性があった。

そんなふうにいろいろと心配しているとき、裏では水野左京大夫たちがこちらを監視してひそひそ話をしていた。

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