悪魔の誘惑
第4章 視線
次の古文の授業で漢字テストの解答用紙をいつも通り出席番号順に一人一人に手渡しで配った。
無論、例の二言を書いた漢字テストを上条にも配った。
彼は漢字テストを丁寧に両手で受けると席に戻っていった。
少し上条の事が気がかりだったが、水野は気持ちを切り替えて口を開いた。
「それでは教科書124ページを開いて下さい。」
教科書を捲る音があちらこちらで聞こえる中、三大随筆の一つである枕草子が記載されているページを誰より早く水野は開く。
有名な一節から始まる第1節の音読者を決める為、水野はクラスメイト全体に視線を移した。
その時、ゾッとするような視線が向けられているのに気づいた。
一点の光も見えない上条の切れ長の目は据わっていて、水野の目をジッと見つめていた。
上条の視線はノートを取る以外、全て水野に向けられ、微動だにしなかった。
目以外は何も語らなかった。姿勢を正して真面目にノートを取り、水野の説明にも耳を傾け、なおかつその利発そうな口は沈黙を貫いていた。
けれど、目だけが無言の圧力をかけていた。
水野は徐々に喉がカラカラに乾いていくのを感じた。
説明も途中つっかえる頻度が多くなった。
無言の圧力をかけられて30分。
我慢の限界だった。