悪魔の誘惑
第4章 視線
「そういう視線を教師に向けるのは失礼です。上条君」
少し震えた水野の声が教室に響き渡り、一斉に上条に視線が集まる。
「そういう視線ってどういう視線ですか?」
上条はやや口角を上げて返答した。両目は三日月の形に細められ、先程までの殺気立ったものとは別のものになっていた。
「っ.....」
水野は黙るしかなかった。
あの獰猛な視線を上条から消し去られてしまった以上、注意する事が出来ないからだ。
「ごめんなさい。先生の勘違いだったみたい。」
水野は作り笑いを浮かべて上条にそう伝えると、更に上条は広角を上げて「そうですか。びっくりしましたよ。」と笑顔で答えた。
初めて直感で上条の笑顔が作り物めいていると感じた。
その作り物めいた笑顔の下に先程の殺気立った視線を隠したのかと思うと恐怖だった。
そして、こんなにも授業終了の鐘が鳴ってほしいと待ち望んだ事はなかった。
生徒の挨拶が終わると、水野は教科書等を抱えて一目散に教室から出ていった。