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悪魔の誘惑

第4章 視線


前期中間考査が目前に迫っている中、そのテスト作りに追われ時間を確認すればもう夜の8時半だった。

昼食のおにぎり2つでは物足りず腹の虫も鳴りそうだ。

けれど料理を作る気力も無く、帰りにせいぜい出来ることは近くのコンビニでお弁当か何か買うぐらいしか出来なさそうだ。

区切りの良いところで仕事を終わらせて、水野はまだ教員室に残ってる職員に「お先に失礼いたします」と挨拶をして学校を出た。

梅雨の到来前だというのに、日中は暖かい気温に包まれていたが、この時間帯の空気は肌寒いものだった。

水野はスプリングコートのボタンをしっかり閉じて、黒の3cmヒールをカツカツ言わせながらコンクリートの地面を歩く。

水野は歩きながら、考え込んでいた。

週1で実施している上条の漢字テストの左端は以前と同じ、ただの空白スペースに戻っていたが、上条による無言の圧力は依然続けられたままだった。

そんな上条を怖いと思う反面、教師として試験というプレッシャーがかかるこの時期に彼の精神状態が不安定にならないのか心配でもあった。

この1週間の間、何度も授業終わりに上条に声をかけたが、彼はその度に笑顔で水野の前を通り過ぎていくだけだった。

彼の心情を少しでも理解してあげたかったが、その前に嫌われてしまったのかもしれない。

何とかしてあげたいと思うがデリケートな問題である以上、今は彼の話を聞く以外に方法が思いつかなかった。


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