悪魔の誘惑
第5章 忍び寄る魔の手
前期中間考査の初日。
朝から教室内には、緊張で張り詰めた空気が漂い、生徒達は皆、丁寧に書き込まれたノートや教科書を見ながら試験開始の鐘が鳴るまで熱心に勉強していた。
初日の試験科目を終えると、クラスメイトの表情には多少の疲労と安堵が戻り、緊張の糸が解れたようだった。
隣の女子生徒と、気さくに話をしている上条に視線を向けないように注意しながら、教室を後にした。
自分の教員デスクに腰掛けると、水野はさっそく前期中間考査の丸つけを開始した。
あの殺意がこもったような視線...どうにかならないのだろうか。
丸つけを開始して早5分、水野は上条の事を頭に思い浮かべてしまう。
試験を終わらせた上条は、試験の残り時間、試験監督の水野を目を逸らさずにジッと見つめていた。
水野が目を逸らしても、彼は口元の前で手を組んだまま視線を変えずに、ただジッと見つめているだけだった。
解決策が出てこないのは仕方ない事だ。
彼と一度も、きちんとした話をしていないのだから。
悩んでいても解決の糸口は見つからないのは分かりきっているはずだった。
「はぁ〜。」
水野は深い溜息を吐いて、デスクに赤ペンを置いた。
そして、自分のほっぺをパンパンと2回平手で打った。
試験の丸つけに専念するべきなのに、それが出来ていない自分への戒めとしてだった。
「あら水野さん、寝不足?コーヒーどうぞ」
ベテラン女性教師の平野が、頼んでもいない缶コーヒーを水野のデスクに置いていくと、水野は缶コーヒーを手に取って苦笑いをした。
コーヒー飲めないんだけどなぁ....。
水野は貰った無糖の缶コーヒーを自分のバッグに入れると、赤ペンを手に丸つけを開始した。