悪魔の誘惑
第5章 忍び寄る魔の手
午後8時....。
「お先に失礼します。お疲れ様でした〜。」
疲れ切った顔で、水野は残業中の職員に挨拶をすると、学校の校門から出た。
足にも疲れが出ているのか、自宅への帰り道が、いつもよりも長く感じた。
日照時間が長くなった空の下、住宅街が並ぶ狭い歩道をトボトボと歩いていく。
その時だ。背後から誰かの視線を感じた。
気のせいだと思いながらも、念のため、水野は後ろを振り返ってみた。
誰かいる.........。
長身の黒いフードを被った男が、水野の背後に一定の距離を置いて歩いていた。
大きめのフードを被っており、顔は口元部分しか見えない。
気がつくと水野は大股かつ早歩きで歩道を歩いていた。
誰なんだろう....。
失礼だと思いながら、気になった水野はもう一度後ろを振り返った。
先程よりも大幅に距離が詰められており、口元には不気味な笑みを浮かべていた。
水野は、恐怖から全力疾走した。
幻聴か真実なのか定かではないが、背後の男の走る足音が微かに耳に入ってくるような気がした。
足を止める事をしなかった。
水野は息せき切ってアパートの階段を登り、まごついた手で玄関の鍵を何とか解錠した。
部屋に入り、息を落ち着かせてベッドの上に腰かけた。
そして水野はふと思い出した。
確か昨日、コンビニに行く際にアパートの公園に誰かがいたのだ。
夜の8時過ぎ。暗くなった公園に一体何の用があって一人で公園にいたのだろう。
もしかして.....。
..........。
そう考えれば考えるほど、得体の知れない恐怖と不安が広がっていくだけだった。
水野は、途中考える事を放棄した。
ストーカーなんてされていない。
きっと気のせい。
そう自分に言い聞かせながらも、心の中に湧き上がった不安と恐怖を拭い去る事は出来なかった。