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悪魔の誘惑

第2章 転校生

その後、職員室を出た水野は上条を連れて、2年A組の教室まで向かった。

緊張した面持ちで初めて入る教室の扉を開けて教壇の前に立った。
一瞬、水野が入ってきたことで教室内がざわめいたが、水野本人にはその理由が分からなかった。

簡単な自己紹介を済ませ、転校生がいる事を告げるとまた教室の空気が一変してざわめいた。

教室の外で待たせている上条に、入るように伝えると、悠然とした足取りで教室内に入ってきた。

職員室と同様、2年A組のクラスの空気も静寂に包まれた。だがそれは1、2秒の刹那の間ではなく、彼が教壇に立ってからも続いていた。

そして、上条は白いチョークで自分の名前を縦書きに整った字で書き、チョークの粉を手から払い落とすとクラスメイトの方に向き直った。

「聖峰高校から転校してきた上条 潤です。よろしくお願いします。」

そう言ってニコリと女子ウケの良さそうな微笑みを浮かべて頭を下げる。
その途端、あちらこちらで女子の黄色い歓声のような声が上がった。

モデル並みに綺麗な美少年が転校生としてやって来るなんていう少女漫画のような展開に思春期の女子が喜ばないはずがない。

一方で、クラスの半数を占める男子生徒からの嫉視を浴びた上条だったが、微笑みを崩さずに落ち着き払った様子でクラス全体を見渡していた。

何度もきっとこういう事があったのだろう。対応がやけに手慣れている感じがした。


イケメン、美女は得だななんて思いながら、「新しい転校生と一緒に頑張っていきましょう。」と水野は述べると、上条を左から3列目、丁度教卓の右真横の一番後ろの席に案内した。

案内し上条を席に座らせると、隣の女子生徒が真っ赤になっていた。

「色々面倒かけるかもしれないけど、よろしくね。」


上条がそう言ってニコリと微笑むと、女子生徒は茹でダコのように真っ赤になった顔で何度も縦にコクコクと頷いた。

けれども、それはあくまでも初対面の人に対して行う挨拶の一環に過ぎなかった。
二重の切れ長の目は隣の女子生徒からすぐに教壇に立つ水野へと視線を移していた。

そして、水野の姿をしっかり捉えた双眼は、綺麗な三日月の形に細められた。

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