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U15っぽいけど実際はR18

第2章 太陽


「止まれ、歩くな乙女よ」



声をかけてきたのはいかにもチャラそうな男で、無視して通り過ぎようとしたが無言の威圧感が消えない。



「先輩がどうなってもいいのか、溝神さん」



自分の耳が侵された。先輩という単語と私の名前。



「どちら様ですか」

「俺はハイエナ。全てと一つだ」

「もう少しわかりやすく話してくれますか」

「丁寧語なのに失礼を言いなさる。まぁいい。この俺、ハイエナという人間は世界に無数に存在する。時間と時空と場所を問わず、あまねく存在する感染症だよ」

「自分を卑下して楽しいですか」

「卑下したつもりはない。感染症にマイナスなイメージを持っているなら、それは溝神さんの主観だ」



嫌いな人種だ。揚げ足ではなくこちらの心を読み、響く急所にチクリと刺してくる。家なきものとか、中途半端な人間ではないことが、余計に厄介だった。まだ通報する領域も超えていない。



「で、感染症さんは何のようですか。さっきの手紙のお返事についてですか」

「俺は捕食者だ。シロヤギではない。随分と分かりにくいユーモアをお持ちなようだ。俺の言いたいことは一つ、先輩にある情報を伝えて欲しい」

「断ったら」

「断らないさ。溝神さんは断らない。この情報を得てしまっては、嫌でも伝えたくなる。そういう話だ」



即座に耳を貫くべきだった。男の口はすでに動いている。一音ずつ空気を伝わって私に届く病の台詞が、脳にベッタリと張り付いていく。これは呪いだ。



「内容は以上。何か質問はあるか。一つだけ受け付ける」

「何故私なんですか」

「自惚れるな。別に溝神さんでなくても良かった。では、失礼。もう一度言う、きっと溝神さんは先輩にこの情報を伝える」



輪郭が風で揺れる。ハイエナと名乗った男は、空に消えた。人間ではないが、幻想でもない。不確かな存在が私に告げた、真実の話。

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