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ビルの下でえんやこら

第1章 警備員

「だが、あの日、家族で過ごしたキャンプは忘れもしない。あれが楽しい思い出であり、最後の思い出なんだ」

「でも、サボさんは、その後に襲われたんでしょ? キャンプに行かなきゃよかったとかは、思わなかったんですか?」

 サボさんは、カップに入ったコーヒーを飲み干した。

「それは後悔をすることじゃあない。現実に向き合わなけりゃ、いけないこともある。それに、俺は、まだ諦めちゃいないんだ」

「サボさん……」

「まだ、妻と息子の二人を見てないんだ。警察は、俺が襲われたのではなく、事故だったんじゃないかと疑っている。それに、妻と息子がいなくなったのも、俺が仕組んだと思い込んでやがる。やつら、人の話を聞きやしないし、ややこしい捜査は動くこともしない。俺は自分とその周りの身を守るために、検事を辞めたんだ」

 いつ狙われるかもしれない恐怖と、巻き添えを防ぐための辞職。

 相当な決断を余儀なくされたに違いないと、そらジローは思った。

「サボさんは、まだそのブラックラインてのを捜してるんですか?」

「あぁ、だいぶ勢力は小さくなってはいるが、組織はまだあるに違いない。名前を変えて存在しているか、表に顔を出しているのか、わからんがな。やつらとしては、部下は消耗品扱いだ。逮捕されればすぐ離れていく。しかも、一人一人が仲間にも偽名を使っている。そんな連中だ」

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