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ビルの下でえんやこら

第3章 家族

「俺の姿は見えるか? もうすっかりおじいちゃんみたいになったけど、俺はお前のお父さんだ」

 そう言うと、サボさんの太い指に、小さな手が絡みついた。


「っ!!」

 サボさんは、わかった。



 これは、光希弥だと……。


 手を繋いで歩くとき、光希弥はサボさんの指を掴んで歩いていた。

 サボさんは、その感触を今でも覚えていた。

 そして、真実がわかった。





 光希弥は死んでいたんだと……。

 そして、今日という日は、約30年前、事故にあったその日だ。

 サボさんは、指をたどり、子供の体に触れようとするが、その実体を感じることは出来なかった。

 30年もの間、また必ず会えると信じていたことが、こういうかたちで現れるなんて……。

 悔しさと憎しみ、それが、目頭を熱くさせた。

「光希弥……守れなくてすまなかった……うっ……本当にすまなかった……」


 徐々に指を握る、小さな手の感触が失われる。

 ボロボロと、止めどなく熱いものが流れてくる。目を開けても、その姿を見ることが出来ない。

 サボさんは、何度も袖で目を拭う。

「貞子……いるんだろ……貞子!」

 シンと静まる空間。外の雨音も聴こえない。雨はやんだのか?

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