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ビルの下でえんやこら

第3章 家族

「貞子!!」

 鏡に近寄る。だが、貞子はジッとこちらを見つめるだけで、動こうとしない。

「俺だ……貞子。わかるか? 姿はもう老いてきてしまったが、俺はお前の夫だ」

 鏡の中の貞子は、うっすらと涙を浮かべているのがわかった。

「いったい、どうしたんだ……なにがあったんだ……」

 サボさんが、問いかけるも、一言も言葉を発しない。

「すまなかった……あの日、俺はお前達を守れなかった……本当に……すまなかった……」

 サボさんは、涙で顔をクチャクチャにしながら、1歩ずつ鏡に近付く。

 ヨタヨタと、両手を鏡に付けると、指先から鏡に埋もれていくのがわかった。

「え……」

 なんとも言えない感情が、グルグルと渦巻く。

 怖いとも、気持ち悪いとも、不思議とも思わなかった。

 ただ、目の前で起こることを、見たまま感じたまま受け入れていた。

 妻に会えた。それは、幽霊でもよかった。会いたかったと言う気持ちが、サボさんの感情を変えた。

 だが、それは、怒りにもなった。

「ブラックライン……」

 やつらに違いない。やつらしかいない。

 気付けば、自分の姿は鏡の中に入っていた。

 後ろに見える鏡には、自分の姿が映ってはいない。

 だが、そこには……


「貞子……」

 貞子の後ろから、光希弥も顔を出した。

「光希弥……」

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