テキストサイズ

ビルの下でえんやこら

第1章 警備員

 武とサボさんは、それを聞いて、まだまだだなとため息をもらす。

「まあ、そらジローくんも、まだ若いんだろ。そこからいろんなものが削れてきて、徐々に芸人らしくなってくるよ。そうなったら、いっぱい金稼いで、俺とサボさんに美味いものおごってよ」

 武は簡単に荷物をまとめると、車の鍵を手に取り、和室を出る。

「じゃ、よろしく頼みます。私、また朝には来ますから」

「はい、お疲れ様です」とサボさんは返すが、そらジローは項垂れたままだ。

 サボさんは、そらジローの背中を軽く叩き、管理人の武を親指で示した。

 そらジローは、顔を上げ、ハッとすると「あ、お疲れ様です」と頭を下げた。

 武は、事務所を出ると、ビルから外に出た。

 扉を開けると、激しい雨の音が聞こえた。

 事務所には、そらジローとサボさんが、パソコンの画面と向かい合っていた。

 画面には、各階廊下と、エレベーターの中にある、防犯カメラの映像が映し出されていた。

「空くん、先に横になってたらどうかね」とサボさんは言う。

 芸名のそらジローは、本名のようなものでもあり、漢字では「空次郎」と書く。

「いや、僕も頑張りますよ。でないと、二人に美味いものおごれないすもん」

「芸人のギャラって、いくらだ?」

「僕は、65000円すよ」

「月、65000円かい!? 安いんだなぁ」

「年収です」

「おう……頑張れよ」としか、言えなかった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ