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ビルの下でえんやこら

第1章 警備員

 そらジローはカップに、口をつける。

「で、子供さんが出て、なにしてる夢見てたんですか? 懐かしかったんじゃないですか?」

「あぁ、広い露天風呂で混浴に浸かってる夢を見たよ」

 そらジローの目が、パッチリと開いた。

「え!? それ……奥さんも……ですか?」

「当時は一緒に入ったが、夢には出なかったなぁ……」

 そらジローは肩を落とした。

「おいおい、空くん、なにを項垂れてんだ。なにを聞きたかったのかね」

「いや、なんでも……僕が夕べ見た夢を思い出しまして……」

「どんな夢だ?」

「なんか、変な夢しか見ないんすよ。文藝春秋と書かれたマンガの本に、ドラゴンボールの孫悟空と、ドラえもんのジャイアンがケンカするってのを見て……それを物まね芸人が一緒に読んで笑ってた」

「なんだそりゃ? わけわかんない夢だなぁ」

「夢って、そういうもんでしょ」

「だが、俺が見た夢はな、昔あったことを走馬灯のように見るんだよ」

「走馬灯って……ちょっと、やめてくださいよぉ~」

 そらジローが、身を引きながら眉間を寄せる。 

「いや、例えじゃよ。いろいろ思い出すように見るんだよ。前に見た夢も、昔の話で……よく家族でキャンプに行ってな」

「キャンプっすか? サボさん見てたら、そんなアウトドアには見えませんよ」

「今じゃないよ、昔だよ」

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