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ビルの下でえんやこら

第1章 警備員

「えっ……」

 そらジローは、喉を鳴らし、強い目付きでサボさんを見た。

「空くん、BLて……聞いたことないか?」

「BLっすか!? たしか、ボーイズラブの略で……」

「そうじゃない。ブラックラインという、組織名の略でBLと呼ばれてるんだよ」

「そのBLっすか……いや、聞いたことないです」

「そうだろうなぁ……」

 サボさんは胸ポケットからタバコの箱を出し、1本、口にくわえた。

「サボさん、ここでは吸えないっすよ」

「んっ!? おぉ……うっかりしていた」

 サボさんは、台の上にタバコを置いた。

 急にタバコを吸おうとしたサボさんに、そらジローが言った。

「どうしたんすか? いつもは、室内では吸わないじゃないですか」

「すまない。BLの事を話そうと思ったら、落ち着けなくてなぁ」

 下唇を軽くかみ、テーブルを指先で落ち着きなく叩く。

 そらジローは、じっとサボさんを見る。

 壁にかけた、四角い時計の秒針が小刻みに音をたて、その音が、偶然にもサボさんが叩く音と重なった。

「ブラックライン、今から30年近く前に、俺が関わったんだよ」

「かかわった?」

「あぁ……あのな、俺は、元検事なんだよ」

「えっ!?」

 驚くと同時に、そらジローの背筋が、ピンと伸びた。

「かしこまることはない、今では、ただの警備員だ……」

 検事だったと思って見れば、いつものサボさんの目が、鋭く見えた。

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