
夏夜の煙
第1章 1人で吸うか、2人で吸うか
お、ちるっ……!!
ギュッと目をつぶるその刹那。
まあるい瞳と、明るい茶髪が見えて。
その瞳と髪の主は、崖の下に吸い込まれそうになってる私の腕をぐい、と掴んだ。
「っ、あっぶねぇっ……!」
そう言って、一気に引き上げられる。
その人は、私をそっと岬に下ろすと、眉を下げて笑って、
「寿命、縮まったわー!」
と言った。
見つめ合うこと数秒。
「…失礼します。」
関わっちゃいけない人だ、と判断した。
名前まで知ってたし。
全速力でスクーターのところまで駆け戻る。
イマドキはこんなスーツ姿のイケメンまで変質者になるのか。
世も末だなぁ。
愛車までたどり着いて、キーを差した瞬間。
「ちょいちょいちょい!どこ行くの、和奏ちゃん!!」
懲りないなぁ…。
ゼーハー言ってる変質者が追いついた。
「やめてください。うざい。」
パシッと手を払いのけて睨みつけると、
「うざいのはこっちだっつーの。」
はぁ、とため息をつかれた。
そしてポケットからスマホを取り出すと、
「2年5組24番、堀和奏。はじめまして、担任の櫻井です。このままだと、留年するよ、ってゆー話をしに来ました。」
と言って、爽やかに微笑んできた。
