スパダリは1日にして為らず!
第1章 それは何かの間違いです
「その時給に見合う仕事が出来るとは思えないんで…、すいませんがやっぱり」
無理です、と頭を下げて断った悠季は、そのまま彼らを見ずに帰ろうと再び向きを変える。
このご時世、上手い話には裏がある。
本当に完璧を必要としない適当な家事と、子どもの相手だけでその値段はあり得ない。
今は可愛らしい子どもが、実はとんでもない暴れん坊だったとか、優しそうな早川もその実態は関わってはヤバい人だとか、考え出したらキリがないけれど、疑いを持つのは決して悪い事じゃない。
しかし
「うーん、何をそんなに嫌がるのか分からないんだけど。悠季くん、ならお試しで1週間通ってみない?」
「おにいちゃん…」
「ぅぅぅ…っ」
帰れ。振り返らずに帰ればこの話はなかった事になる。今、帰っても罪悪感なんてほんの少しの間だけだ。
頭ではそうだと分かっているのに、悠季の足が進まない。
泣きそうな子どもの声はきつい。
「ダメかなぁ。こうした偶然からの出会いって何か意味があると思うんだけど」
「……した」
「え?」
「分かりました!お試しでやります。でも本当に俺、何も出来ないですよっ?」
元々強く出られない性格で、ついでにきっぱりはっきり断るのも実は苦手な悠季は、割と早い今の段階で白旗を挙げた。
「わーい!やったあっ!」
「うわっ」
いつの間にか真後ろに来ていたハルが悠季に抱き着く。小さな柔らかいタックルを太腿辺りに受け、悠季がびくりと肩を揺らした。
「ありがとう。とりあえず急だけど明日からいい?正直なところ急いでるんだ」
「…はい」
出来る気は全くしないけれど、もう諦めた。「出来ない」と申告した上でそれでも来てくれと言った早川には、今後文句を言われる事はないだろう。いや、言われたく内。
何だか有耶無耶なまま、悠季は新しい職場をとりあえずはゲットした。
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