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スパダリは1日にして為らず!

第1章 それは何かの間違いです



ー…それがどうしてこうなってるのだろうか。


「通いでお試し」の筈が、何故か早川の家を出る頃には通いから住み込みと言う約束になっていた。

しかし決まったものをどう抗議しようと、遙斗がその度に目を潤ませて絶妙のタイミングで切ない声を出すものだから、結局最終的には悠季は頷かざるを得なくなったと言う結末である。


「はぁー…」

手にしたボストンバッグには洗い換えの効く衣類が数泊分、それと細々とした生活必需品が入っている。
早川には「新しくすればいいのに」と言われたが、今あるお金を無駄にしたくない悠季は聞き入れなかった。

ー…だって、これですぐクビになったら本当にヤバいし。

アパートはそのままにしておくから、家賃は発生するし光熱費だって基本料金は持っていかれるのだ。

それを考えたら、少しでも節約したい。
大学にも行かないただのフリーターには、色々な意味で就職は厳しい。


もう一度、…今度は何かを決意するような息を吐き、悠季は玄関チャイムをえいっ、と勢い付けて押した。


*****


「ここが君の部屋ね。一通り家具は揃ってるからいいと思うんだけど、足りないものがあれば遠慮なく言って」

玄関が開いた瞬間からしがみつくようにくっつく遙斗と手を繋ぎ、早川に案内された部屋を見て悠季は絶句した。

「え…」

悠季の住む6畳一間のワンルームより広い。…恐らく10畳はくだらないだろう。
まだ最低限の家具だけで荷物らしい荷物がないから余計に広く見えるのもあるが。

「荷物は後で片付けて貰えるかな?とりあえず出かける前に簡単に案内したいから」

そう告げた早川は確かにさっきから腕時計を気にしている。そう言えば忙しいと言っていたっけ。

「あ、はい」

悠季はバッグを床に置き、そわそわしている早川に向き直った。

「忙しなくてごめんね。今日は何もしなくていいからハルといてやって。ご飯代を置いて行くから2人で好きに使って」

本当に急いでいるのだろう。早川はそれだけ言うとさっさと1人玄関に向かう。
その早さに呆気に取られたが、慌てて悠季は玄関にいる早川に追い付いた。

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