スパダリは1日にして為らず!
第1章 それは何かの間違いです
「行ってらっしゃい」
遙斗と一緒に玄関から早川を見送る。何がどうと言う訳ではないが、雇い主を送る位はした方が良いだろうと思ったからだ。
しかし、早川はその見送りに一瞬目を瞬かせ、次にはやけに嬉しそうに顔面を綻ばせた。
「行ってきます」
声まで弾んで聞こえるのは気のせいだろうか。ただ見送るだけで、あんなに嬉しそうな顔をされるとは思わなかった。何だろう、ちょっと照れ臭い。
「…ま、いっか」
あまり深く考えず、閉じられた玄関に背を向け、また遙斗と手を繋いでリビングに向かう。
遙斗はリビングに着いた途端、いそいそと何処かに走って行った。家の中だから追い掛ける事もないかと、悠季はソファーの端にちょこんと座った。
いくら家主がいないとは言え、堂々と座るのは憚られたからだ。
何となく、早川の性格は悪くはなさそうな予感がした。
成り行きとは言えここに住み込みで働く以上、性格は良いに越した事はないからそこは当たりみたいだ。
だけど。
子ども相手は何とかなりそうでも、とにかく家事には全く自信がない。それだけが悠季の気がかりだった。
悠季がぐるりとリビングを見回す。
昨日の今日だから当然だけど、お世辞にも綺麗なんて言葉は当てはまらない位散らかっている。
いくら「遙斗の相手だけでいい」と言われても、一応今日から仕事は始まっている。
なのにこれに手を付けずにいるのは、さすがに憚られた。
家事に自信なんてのは本当の本当にないけれど。
「……とりあえず、やるか」
まだ戻って来ない遙斗を待たず、悠季は徐にソファーから立ち上がった。
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