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スパダリは1日にして為らず!

第1章 それは何かの間違いです



靴を急かされるように脱ぎ、お邪魔します、と誰にともなく呟いた途端「こっちだよ」と引っ張られるままに廊下を進んだ悠季は、キョロキョロと見える範囲の周囲の様子を伺った。


…はっきり言って、いや、言わなくても汚い。

階段の隅には無造作に服が積み重ねられているし、廊下にも所々目に見えて埃が溜まっている。

さすがに目立つゴミは落ちていないが、ろくに掃除をしていないのは明らかだ。

悠季自身も、別に潔癖症ではないし、むしろ埃くらいでは死なないと思う方である。

それでも家に誰かを招く時位は体裁を整える事はしている。

まあ、押し入れが開かずの扉になるだけではあるが、そこさえ開けなければ構わないのだ。開けなければ見た目だけは綺麗に見えるのだから。

しかしここは、その体裁さえ全く繕っていない。
洋服が山積みだろうが、そこにあろうことか下着まで平然と置いてある。
女性物でないだけマシだとか、そんなレベルなのだ。


面接云々の前に、子どもがいるのにこの状況は、独身の若造の自分でもおかしいと思ってしまう。

一体電話の主…この子の父親は、母親は何をしているのだろうか。

とは言え、それはあくまでも心の中に閉まっておく。
いくらなんでも初対面の人間に何か言うなんて出来る訳がないのだ。


階段を右手に通り越した先の、こじゃれたドアに子どもが手を掛けた。
恐らくこのドアの向こうがリビングだろう。

手前にもドアが2つ程あったが、小さな灯り取りは多分トイレ。そしてもう1つは浴室に続くのだと予想が付いていた。


「パパぁ?」

悠季の腕は離さないまま、子どもがドアの中に顔を突っ込んだ。


……この中に、電話の主がいる。

悠季は色々と複雑な胸中を抑えるように無意識に胸の辺りに掌を当てた。

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