スパダリは1日にして為らず!
第1章 それは何かの間違いです
特に子ども好きと言う訳ではないが、この何とも言えない切ない声を振り切れる程、悠季とて冷酷ではない。
しかも初対面で懐っこい笑顔なんて向けられていれば、短時間でも情が湧いてしまうものだ。
「話だけでも、聞いて貰えないかな」
背中に掛かる男の声に混じって、鼻をすする音が重なる。
さすがにこれで「帰ります」とはもう言えない。
悠季は分からない程度にため息を吐き、半ば諦めたようにゆっくりと振り返った。
「えーと、今さらだけど名前聞いていいかな?」
「早川…悠季です」
未だに名前すら名乗ってなかった事すら忘れていた。
「はは。俺も同じ早川だ。親戚筋だったりして」
男が同じ姓だと言うのに親近感を覚えながらも 、悠季の心の中では「うちの家系にこんなイケメンは存在しません」などと思っていた。
「この子は、息子の遙斗(はると)。ここには2人で暮らしてる」
「あの、奥さんは…」
こう言った事を聞いていいのか分からなかったが、止めとくかと頭が考えるより先に言葉の方が先に口に出てしまう。
「あ、いえ…すいません」
そして後悔するのが悠季のセオリーだ。
「謝らなくていいよ、隠すもんじゃないし。ハルの母親はいない。ハルが1歳の時に離婚した」
「そう、ですか」
それ以外の返す言葉なんて見つからない。
「で、話をしていいかな?」
「あ、はい」
早川からの話は言わずもがな「仕事」の話だった。
家事は最低限、出来る範囲で構わない事。メインは家事よりも辞めてしまったシッターの役目らしい。
保育園に入り損ねた、と言うかそう言った手続きを何も知らなかった為に遙斗は家にいるしかないのだと言う。
「完璧な家事なんて求めないよ。俺もこの通り全然ダメだしな」
早川が部屋を見渡して「…ね?」と苦笑を浮かべた。
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