
花と時計
第3章 微睡み
「それ、依子ちゃんの?」
「あ、と、図書室のです。
自分では手に入れられなくて、ずっと探していたんです」
「面白いね、俺も同じだよ。
最後まで読んだ?」
「はい!
『暗乃雲の集大成』と謳われるだけあって、もう……言葉にできません」
「依子ちゃんはさ」
先輩は、私を呼んでから言葉を続ける。
「もし“彼”だったら、どっちを選ぶ?」
終わりと始まりを繰り返す永遠か、終わらない永遠か。
それはファンの間で取りあげられている議題のひとつだった。
自分が“彼”だったらと想定し、“彼”の選択が正しいと思うかどうか。
繰り返す永遠を選んだ“彼”の行く末は、果たして幸せなのかどうか。
解釈議論のサイトをたくさん見てきた私だけど、改めて、自分で読んでみると、答えはひとつしか浮かばなかった。
「私は、終わらない永遠です」
「どうして?」
「もう二度と同じ“花”に会えなくなるのは悲しいから」
終わりと始まりの繰り返し。
それは、今までの記憶が一新されるということ。
別の星でまた“花”が始まりを迎えていたとしても、彼女は新しい“花”であり、“彼”が、今まで愛していた“花”ではないのだ。
“彼”には、かつての記憶があるというのに。
その行く末を、私は幸せだとは思わない。
「先輩はどうですか?」
私が聞き返すと、先輩は肩を竦めて、微笑んだ。
「俺も同じ。
ふふ、運命だね」
「や、やめてください」
