
花と時計
第4章 夢
ふと、鏡にうつった自分を見て、目を隠す前髪を触る。
これを切ったら、先輩は何て言ってくれるだろう。
無意識に沸き起こる妄想に、私は恥ずかしくなった。
馬鹿な夢だ。
逃げるようにして、女子トイレから出ると、壁にもたれかかって立っている先輩が見えた。
彼と親しげに話している女の人の姿も。
私は息をのんだ。
女の人は絵に描いたような美女で、ラフな格好だというのに、それが逆に美しいスタイルを際立たせている。
そんな彼女は先輩の手を握り、笑っている。
先輩も何やら話をして、おもむろに彼女の手首に口づけをした。
彼女は嬉しげにその手で彼の首筋を撫でる。
じゃあまた。
口がそう動いて、女の人は去っていった。
彼女を見送った先輩は振り返る。
立ち止まっていた私と目が合う。
明らかに目撃者である私に、彼は気まずさなんて一切見せず、蠱惑的な微笑みすら浮かべる。
高嶺の花は、私の感情に気がついているのだろうか。
強い憧れに焼ける、私の心に。
気がついているのだろうか。
