
花と時計
第4章 夢
「ありがとうございました。
こんなに買っていただいて」
帰りのバスの中で、私は先輩に頭を下げた。
私の脇には、彼が買ってくれた服の袋が2つ、バスに揺れて、音をたてている。
「いいんだよ。
俺、久しぶりにはしゃいじゃった」
彼は言って、大きく伸びをすると、私を見た。
「本も買えたしね」
「そうですね!」
私は買い物袋をあさり、買った文庫本を取り出した。
ベルベット色の表紙に題字のみのシンプルなレイアウトは、先輩が好きな『藍鼠色』を彷彿とさせる。
「読むの楽しみだなぁ」
私は裏表紙にもよくよく目を凝らす。
表紙同様、ベルベット一色で、そこにあらすじは記されていない。
それは、暗乃雲のこだわりだった。
事前に公表される作品情報も、発売日とタイトルだけで、あらすじは絶対に知らせない。
読めばわかる。
この一貫した姿勢もまた、ファン心をくすぐり、新作がでる前は必ず、ネットで物語予想の論争が巻き起こる。
「ネットでは題名から一族の愛憎劇だと推測している意見が多かったんですけど、どうなんでしょうね。
確かに、暗乃先生はそのままの題名をつける傾向があるし。
先輩はどう思いますか?」
私は先輩を見て、口を閉じた。
