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花と時計

第5章 花言葉


柵をつかむ私の手に、白い手が重ねられた。
はっと振り返ると、先輩が私の後ろに立っていた。

「俺に会いに来てくれた?」

彼は私の手と一緒に、扉を押した。
キィ、と金具が擦れる音がして、花の香りが私たちを迎え入れる。

手はすぐに離れた。

彼の背に私は問いかける。

「せ、先輩はどうして?」

「息抜き」

私は花壇の花を見る。
美しく整えられた花たちは、そのドレスを広げて、虫たちを誘っている。

「ここ、学校からも寮からも遠いから誰も来ないんだよね。
来るのは用務員とか警備員とかだけ」

花壇の遊歩道を抜けると、生け垣に囲まれた原っぱについた。
その真ん中辺りまで行って、先輩は、持っていた鞄を放ると、その近くに腰を下ろす。

「おいで」

隣に座るように促されて、私も芝生の上に座った。

「不思議な花園ですね」

「この学校名の由来らしいよ」

「そうなんですか」

「この地に咲く花は終わりを知らない。
そういう風に、純粋で高潔な魂を忘れない人間を育てる場所」

「詳しいですね」

先輩は何も言わず、両腕を頭の後ろで組んで寝そべった。

私は、両目をつぶってしまった先輩の、どこか不機嫌そうな顔を見つめた。


今朝の噂のせいなのは想像がつく。
触れないことは簡単だ。


だけど……。


私は、意を決して息を吸った。

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