
花と時計
第5章 花言葉
「先輩」
「何」
「う、噂を聞きました」
「それで」
先輩らしくない素っ気ない返答は、壁を感じさせる。
私は、たてた両膝を抱えて、自分の爪先に目を落とした。
「その、わ、私は心配です」
ちら、と、先輩を一瞥する。
彼はずっと目をつぶっている。
「先輩は3年生です。
し、進学とか就職とか大事な時期ですよね?
そんなときに、こんな、信用を落とすような噂が流れるなんて、よ、よくないです」
「あっちが巻き込んでくるんだよ。
どうしようもない」
「なくありませんっ」
つい、語気に力が入る。
他人からの悪意に、私は、私の憧れを殺されたくない。
私は体勢を崩して、先輩の方へ体を向けた。
彼は私を見つめていた。
話を聞いてくれている。
私は、更に彼に詰め寄った。
「もっ、もっと、ちゃんとしたらいいんです。
見た目とかいろいろ。
ああいう方とも関係を絶って」
ふっと、先輩は吹き出した。
「笑わないでください!」
そのまま笑い続ける彼に、私は思わず怒鳴った。
彼は笑いながら体を起こし、たてた片膝に頬杖をついて、私へ目を向ける。
ぞっとするくらい、冷ややかに。
怒りが一気に引いて、私は口をつぐんだ。
