
花と時計
第5章 花言葉
「俺は、君の何だろうね」
静かに、彼は言った。
「な、何?」
質問の意味がわからず、聞き返す私に、彼は微笑んで、続ける。
「俺は、みんなの夢なんだ。
みんなの夢で俺は出来ていて、みんなの夢が俺の居場所」
みんなの夢?
何のこと?
私は戸惑うしかなかった。
そんな私を見透かすように、彼の瞳はずっと私を映す。
「当てようか」
「え?」
頬杖をしていた手が、私の前髪に、頬に触る。
「君は俺に憧れてる。
君は俺から、自分にないものを得ようとしている」
彼の声が空気を震わせ、私の心臓の鼓動は次第に早くなる。
「だからこの前、ちょっと頑張ってみたんでしょう?
憧れてるだけだからって言い訳をしながら」
バスの中の背徳的なあの口づけのことだった。
「いっ、言い訳じゃありません!
わ、私は、本当に、先輩に、あ、憧れていて」
し、と、彼の人差し指が私の唇を制した。
「いいよ、そのままで。
俺はただ、君に、俺の居場所になってほしいんだ」
「い、居場所……」
心臓がうるさい。
彼が吐息を混ぜて、話せば話すほど、私の体は熱くなる。
