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花と時計

第5章 花言葉



「依子」


不意に、彼は私の名前を呼び捨てる。

「俺は、君の何だろう」

言って?
唇が動く。

「あ」

喉の奥から声が溢れる。
彼のものになってしまったかのように。

「先輩は、わ、私の憧れ。
私の夢、です」

彼は、私の耳に顔を寄せる。

「どうしたい?」

眩むような甘い匂いがする。

「あ、あなたの、全てが欲しい」

耳の縁が、舌でなぞられた。
耳たぶを噛まれ、耳の中に口づけされる。

体が勝手に反応してしまって、堪えたくて、私は目を閉じた。

次は唇。
触れあって、離れて、また触れて、彼が口の中で笑うと、くすぐったくて、私も笑った。

目を開ける。
長い前髪が邪魔をして、彼の顔が見えない。

「ん、せ、先輩」

息つく合間に彼を呼ぶ。

「なに?」

「私の前髪を、切ってくれませんか」

「あんなに嫌がってたのに」

「本当は嫌です。でも」

私は一息ついて、言った。


「今は、先輩の顔がちゃんと見られないのが、一番、嫌、です」

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