
花と時計
第1章 心の殻
彼は輪の中心にいる人たちから気に入られている存在である。
その輪の中には、私をいじめようとしてきた女の子たちが含まれている。
未だに、私を傷つけようとあれこれしてくる彼女たちだから、もしも、私が何か勘違いをして、つけあがったような素振りをみせたと聞けば、よろこんで、それを矛に、私をつついてくるだろう。
彼が私を褒める作戦に出て、私に近づいてきたのは、きっと、そこに理由があるからに違いない。
私の心の殻は、私の平穏を脅かす存在を許さない。
私は熱が冷めていくのを感じながら、言った。
「ど、どうして、そんなことを、聞くんですか」
久しぶりに誰かと会話をするために声を出したから、言葉にひっかかる。
それでも、私は続けた。
「わ、私と仲がいいって疑われることが、う、現瀬くん、には、いいこと、なんですか」
三枚のプリントを重ねた左端をホチキスで挟める。
「いいことだよ」
前髪の向こうにいる彼は、呟きながら、プリントを三枚重ねる。
私は、彼が重ねてくれたプリントの左端をホチキスで挟む。
ばちん。
うまく紙を貫通せず、ねじまがった芯が、机に落ちる。
それを、そっと彼の指が取り上げる。
「だって俺は、花来(カライ)と……」
私と?
