
花と時計
第6章 I fall in love with unknown
「そんな、おこがましいです。
私なんかが」
「好きになったらそんなの関係ないよ」
森さんの横顔が、ふと、大人びて見えた。
私が見ているのに気づいた彼女もまた、私を見る。
「花来さんには他にいい人がいるよ。ちゃんと幸せにしてくれる人」
元気な笑顔を見せた彼女に、さっきの翳は残っていなかった。
だけど、人間は秘密を持つ生き物だ。
ゴミ捨てを終えて、遠くなる彼女の背中を見送りながら、いつか、と、思う。
いつか彼女は教えてくれるだろうか。
そんな友達に、私たちはなれるだろうか、と。
そう思う私の気持ちはきっと『好き』というのだろうし、森さんに抱く、私の密やかな夢だ。
夢、か。
私は昇降口の出入り口で立ち止まった。
