
花と時計
第6章 I fall in love with unknown
3階は屋根裏部屋になっていた。
空気が動かないためか、下よりも埃臭いし、暑い。
先に上がった先輩が窓を開けて、風が入ると、床に積もった埃が舞い上がった。
私は咳き込みながら急いで上がり、窓辺に急ぐ。
夏の風が心地よく、前髪を揺らした。
学校の敷地の一番端に位置しているこの建物からは、花園も時計塔も校舎も寮も、学校中が見渡せた。
私は深呼吸をひとつして、室内を振り返る。
何故だか部屋にはカウチソファと小さなテーブルがあり、蓄音機が置いてあった。
「蓄音機、使えるんですか?」
「この前は使えたよ」
見せたいものがあるといっていたから、すでに確認済みのようだ。
でも、私に見せたいものって何だろう。
先輩は蓄音機の側にある棚をいじっている。
棚には、大量のレコードが並べられていて、先輩は本をめくるようにレコードを選んでいる。
「あった」
先輩が引き出したカバーに、私は見覚えがあった。
「あっ、それは!」
私はかぶりつくように、それに詰め寄る。
化粧台に置かれた真っ赤な口紅。
鏡には『I fall in love with unknown』と、曲のタイトルが記されている。
暗乃雲のペンネームの由来になった曲。
その本物だった。
