
花と時計
第6章 I fall in love with unknown
素敵なサプライズに、私は先輩を見上げた。
「聴きたいです!」
「でしょう?」
私達は顔を見合わせて笑った。
先輩が蓄音機にレコードをセットするのを、私はわくわくしながら見守った。
そして、レコードがゆっくり回りだす。
ラッパ菅から、くぐもった音色が溢れだし、私の鼓膜を通って、強く心を揺れ動かす。
「夢みたい……」
私は幸せのため息をついて、カウチソファに体を沈める。
アルトサックスを主旋律において、ゆったりと進むバラード調の曲は、ありとあらゆる愛に満ちている。
時には、純粋で優しく。
時には、情熱的で。
時には、憎くて仕方がない。
暗乃雲になる前の誰かは、きっと、この曲を聴いて、愛の様々な姿に気がついたのだろう。
だから、暗乃雲の作品は必ず愛を主軸に作られているのだ。
「『I fall in love with unknown』
私は、まだ知らないあなたと恋をする」
先輩の声に、私は目を開けた。
私の隣で足を組んで座り、カバーを眺める彼は、映画のワンシーンのように美しかった。
