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花と時計

第6章 I fall in love with unknown


「どういう意味だろうね」

私は途端に恥ずかしくなり、ちゃんと座り直した。
そうして改めて、私は答えた。

「人間はいろんな要素で出来ています。
いいところ悪いところ、隠し事、知らなくていいこと……。
そういう、知らなかったあなたを知る度に、恋に落ちてしまうんです。
どんどん、深く」


私は、森さんの影を思い出した。

『好きになったらそんなの関係ないよ』

関係ない。

そうだ。

好きになったら。
憧れたら、恋に落ちたら、知りたくなる。

どうしようもなく、焦がれてしまう。

「私は、先輩のことを何も知りません」


ぶつっ。


「教えて下さい」

曲が終わった。
室内に響く音は何もない。

「せ、先輩はずるいです。
私のことばかり知って、わ、私には何も教えてくれない」

「俺はみんなの夢だから」

「分かりません」

「ハッキリしないから夢なんだよ。
雲みたいに手に掴めない。
だから、体を預けると気持ちいい」

気持ちいい。
確かにそうだ。
頭が痺れて、もっと欲しくなる。

彼は意図的にその状態に人を引きずりこむことが出来る。
だから、夢であることを求められてしまう。

求められた分、彼はそれを返してしまう。

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