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花と時計

第8章 震える蕾


私は一息ついた。
恭次くんも冷静になったようで、私の手首を掴んでいた手をあわてて離した。

「ごっ、ごめん。勝手に手」

「とっても頼もしかった。
ありがとう」

私は彼を見上げる。

彼は恥ずかしそうにはにかんで、

「じゃあ、いっか」

と、今度は、私の手を握った。

「う、うん」

私は頷いた。
熱すぎるくらい温かい手だった。

まさか、初恋の人と手を繋ぐ日が来るとは。

私の鼓動は自然と早くなる。


先輩と手を繋いだ時と同じように。


だめだ、こんな時に。

私は頭を振った。

恭次くんと遊んでいるのに、夢咲先輩のことを考えるなんて、失礼すぎる。

だけど、私の頭は勝手に、先輩のことを考える。
私の目は勝手に、人混みの中から藍鼠色を見つけようとする。

恭次くんと写真を撮っても、アトラクションを楽しんでも、会話をしても、ふと気がつくと、先輩のことを探しているのだ。

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