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花と時計

第8章 震える蕾


「……気にしてません」

嘘をつく私を、彼は見つめる。

「嘘。分かるって」

人間関係の経験値がなせる業らしい。
私は嘘をつくのをやめた。

「いる、といえば、います」

「どんな人?」

「夢のような人」

いい意味でも、悪い意味でも。
眼差しひとつで、私をかき乱す人。

私はため息をついて、言った。

「でも、私は分からない。
どういう好きなのか。
憧れなのか恋、なのか。
ハッキリしないの。
ただ、好きってことだけ」

蕾があると知っただけ。
秘めた言葉は、咲く気配すらない。

だけど、と、私は口を動かす。

分かったところで。


「どのみち、私は先輩に相応しくない」


先輩が買ってくれたチェックのスカートに、カップから落ちた水滴がシミを作っていた。


「相応しくないのはよりこじゃなくて、先輩なんじゃねーの」

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