
花と時計
第8章 震える蕾
私は顔をあげた。
恭次くんは真剣な表情をして言った。
「好きは好きだろ。
どっちもあって、だから好きなんだろ。
難しいこと考えて、よりこが遠慮してる時点で、そいつはよりこに相応しくないし、よりこを幸せになんか出来ない」
喧騒が遠のいていく。
「わ、私は、幸せにしてほしいなんて思ってない。
ただ、一緒にいたいだけで」
「でも、いないだろ」
「だって、だって私は先輩の特別じゃない」
「じゃあ何なんだよ」
思い出す。
心を焼く、あの熱を。
瞳の色を。
「私は」
夢に落ちた、あの快楽を。
「先輩の居場所。
たくさんいる有象無象のひとり」
自分勝手な女。
「よりこ!」
両手を掴まれた。
恭次くんは、泣きそうな、怒っているような表情をしていた。
「お前、そいつにいいように思われてるって。
使われてんだよ。
わかんねーのか?!」
「っ!」
かっと頭に血がのぼる。
私は彼の手を振り払った。
「先輩のこと、悪く言わないで!」
