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花と時計

第2章 高嶺の花の香り


藍鼠色。

私が好きな小説家、暗乃雲(アンノウン)が、その色を題名にした小説を出版していたからよく覚えている。

だから余計に目についた。


座っている列から察するに、彼は3年生だ。

眉毛がみえるほど短い前髪に合わせて、全体も短くしている。
きりっとした女性モデルのように整った顔立ちと相まって、一見、男装している少女のようだ。

制服のシャツのボタンを鎖骨が見えるほど開けて、ネクタイもそれに合わせて緩められている。

眠たさを隠さずにあくびをし、足をくみかえる。


校則が掟として機能しているこの学校では、生徒は皆、同じ格好を強いられる。

その中で、彼はとても自由だったし、自信に満ちていた。
ただ反発しているのではなく、何かのこだわりや理由があってそうしているような。

私にはないものを、彼は溢れさせていた。


あの先輩の名前は何と言うのだろう。
知りたい、と、思った。

今まで、他人に心を閉ざしてきたのに。


私の心は、殻を透過して響く何かに揺れていた。

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