花と時計
第2章 高嶺の花の香り
私は、意図せず、すぐに彼の名前を知ることになった。
夢咲聖(ユメサキヒジリ)。
見た目や所作からして自由な彼は、学校一の問題児のようで、少し聞き耳をたてただけで、校内の至るところから、彼が行ったらしい悪行の噂を聞くことができた。
髪色や制服の着方を始めとして、寮の門限破りは当たり前、無断外泊や学外内を問わない不純異性交遊など。
彼の噂話は、空気中を舞う埃のように無数で、そこかしこに流れていた。
もし、それらの噂話が全て本物だったら、先輩はとっくに退学処分になっているはずだから、尾ひれがついている可能性が高い。
だけど、少なくとも、夢咲聖という人間は、花園高校の生徒達から、危険人物だと一目置かれている一方、陰では、ゴシップとして、あるいは、自由の象徴として、夢を見られている存在であることは間違いなかった。
私とは別世界で生きている人。
名前も人となりも知ったのに、逆に遠くなってしまった。
私は、私にはないものを溢れるほど持っている彼に心が揺れたけれど、そんな人に、ましてや先輩に、話しかける勇気なんてない。
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