堕ちる
第1章 1
目の前に他人がいるだけで緊張し、顔が強張り、考えていることの半分も言葉にできなくなる。
同い年のクラスメイトとすらまともな口を利けず、コミュニケーションがとれないから友達もいない。
自分でも情けないと思うが、どうしようもなかった。
「よかった。じゃあさ、これからちょっと付き合ってよ?」
僕の返事を聞くと江藤さんは一転して笑顔になり、そう言った。
「え? あの、付き合うって……」
「んとさ、私もそろそろ受験のこと考えなきゃなって思いはじめたんだよね。だから、長谷川に勉強を教えてもらいたくて」
聞いてみると、彼女の用件は至極まともなものだった。
確かにもう二年の冬で、受験のことを考えはじめるには遅いくらいだが、手遅れというほどでもない。
それに彼女は、『入れるところに入ればいい』というタイプだろう。
そういうタイプにとっては尚更、手遅れなどということはない。
が──
勉強をはじめるとして、なぜ僕に頼るのかと思った。
「いや、僕は、あの……」
僕のように、他人とまともにコミュニケーションの取れない人間に、勉強を教えるなどということが、できると思っているのか?
「えぇ、ダメなの?」
「いや、ただ……勉強なら先生に……」
「先生の授業じゃさっぱりわかんないから、長谷川にお願いしてるんじゃん」
確かに、通っている学校の先生は、誰を見ても教え方が上手いとは思えなかった。
だがそれならば、上手くはない先生の授業でも理解できるように、自分が努力すればいいのではないかとも思う。
いや、自分でどうにかしろというのでは、学校の意味が無くなってしまうのか?
「ね? 友達が困ってるんだからさ。お願い」
あれこれ考えていると、突然江藤さんが僕の手を握り言った。
友達と──
しかし、僕と江藤さんは、いつから友達なのか?
「いいでしょ? 決まりね」
声も出せないでいると江藤さんは勝手に決定してしまい、そのまま、僕の手を引いて歩きはじめた。
「あの、どこに?」
「私の家。私さ、自分ちじゃないと集中できないんだよね」
事も無げに言うが、聞いた僕の頭は爆発寸前だった。
他人の──女性の──江藤さんの自宅。
同い年のクラスメイトとすらまともな口を利けず、コミュニケーションがとれないから友達もいない。
自分でも情けないと思うが、どうしようもなかった。
「よかった。じゃあさ、これからちょっと付き合ってよ?」
僕の返事を聞くと江藤さんは一転して笑顔になり、そう言った。
「え? あの、付き合うって……」
「んとさ、私もそろそろ受験のこと考えなきゃなって思いはじめたんだよね。だから、長谷川に勉強を教えてもらいたくて」
聞いてみると、彼女の用件は至極まともなものだった。
確かにもう二年の冬で、受験のことを考えはじめるには遅いくらいだが、手遅れというほどでもない。
それに彼女は、『入れるところに入ればいい』というタイプだろう。
そういうタイプにとっては尚更、手遅れなどということはない。
が──
勉強をはじめるとして、なぜ僕に頼るのかと思った。
「いや、僕は、あの……」
僕のように、他人とまともにコミュニケーションの取れない人間に、勉強を教えるなどということが、できると思っているのか?
「えぇ、ダメなの?」
「いや、ただ……勉強なら先生に……」
「先生の授業じゃさっぱりわかんないから、長谷川にお願いしてるんじゃん」
確かに、通っている学校の先生は、誰を見ても教え方が上手いとは思えなかった。
だがそれならば、上手くはない先生の授業でも理解できるように、自分が努力すればいいのではないかとも思う。
いや、自分でどうにかしろというのでは、学校の意味が無くなってしまうのか?
「ね? 友達が困ってるんだからさ。お願い」
あれこれ考えていると、突然江藤さんが僕の手を握り言った。
友達と──
しかし、僕と江藤さんは、いつから友達なのか?
「いいでしょ? 決まりね」
声も出せないでいると江藤さんは勝手に決定してしまい、そのまま、僕の手を引いて歩きはじめた。
「あの、どこに?」
「私の家。私さ、自分ちじゃないと集中できないんだよね」
事も無げに言うが、聞いた僕の頭は爆発寸前だった。
他人の──女性の──江藤さんの自宅。