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堕ちる

第1章 1

いや、謝るほどのことではないのだから、単に話し出す切っ掛けとして言ったまでなのだろう。

とにかく、お尻のことは気にしていない。

それどころか、すれ違うときに、江藤さんの大きな胸が僕の体に触れていたことも、まるで気にしていないようだった。

思わずため息が出た。

下手をすると「スケベ」と罵られ、変態の烙印を押されるところだったのだ。

それにしても──

安心したところで、僕は江藤さんのお尻や胸の感触を思いだしてしまった。

手を握られた時の感触とは違う。

スカートの中が見えたときと、性的な感覚という意味では一緒だが、その衝撃はまるで違う。

意識せずにはいられなった。

思わず、下半身に血を集めてしまいそうになる。

僕は自分の顔を叩き、気持ちを切り替えた。

こんなことを考えてちゃいけない。

僕は江藤さんに勉強を教えに来たのだ。

それを思うと、一気に血の気が引いた。

そう言えば、その本題について、僕はまだ覚悟が出来ていない。

江藤さんを相手に、はたしてちゃんと教えられるのか?

いや、迷っている暇はないのだ。

ここまで来たら、やるしかない。

コミュニケーションを取ることなど意識せず、機械的に問題の解説をするのだと思えばいい。

そう思うと、少しは気持ちが軽くなった。

階段を登りきり、言われた通り、一番手前にあった扉を開ける。

部屋の中を覗いた瞬間、僕は少し意外な気がした。

綺麗に片付いているのだ。

江藤さんのことだから、もっと汚い──汚いというよりは、ごちゃごちゃと落ち着きのない部屋のような気が、どこかでしていた。

だがそんなことはなく、部屋の中は整理整頓が行き届き、それでいて然り気無く置かれたヌイグルミやその他雑貨、カーテンの色などが、可愛らしさを演出している。

思わず部屋を間違えたのではと、もう一度扉の位置を確認するが、間違いなく階段から見て一番手前の部屋だった。

「意外と……」

一人きりの部屋で、ぽつりと呟いた。

本当に、意外と気が合うことも、あるのかもしれない──

思わず頬が弛む。

なにか、地味で暗かった僕の人生が、一変に華やぐのではとの予感がしてしまう。

勉強を教えるのも、案外上手くできる気がした。

「あ、暖房」

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