ほんとのうた(仮題)
第1章 孤独(ひとり)と逃避(ひとり)
いい加減、眠い目をしながら俺はふと自問する。しかしながら、ここに至った経緯なら、それは単純な話だった。
女は握り締めた俺の手を、絶対に放そうとはしなかった。その頬を涙で濡らしながら、自らが空腹であることを必死に訴え続けたのである。
「ああ、もう! わかったから!」
結果、その根性(?)に根負け。俺は女を連れて、近所の牛丼屋を訪れた――というわけ。
こんな時間に、俺は一体なにをしているのだろうか。会社を辞め無職となり、明日から自分の身の振り方を熟慮しなければならない、この時に……。
どこの馬の骨とも知れない空腹女子に、付き合っている場合ではなかった。
「ふう……生き返ったぁ」
大小二杯の牛丼を平らげ、とりあえず女の腹は満たされたようだ。
今度こそと思い、俺は女に訊ねる。
「お前は、何者だ?」
すると、なぜか女はキョトンとした顔を見せ。
「え、そうくる? そっかぁ、オジサンだしね。まあ……それなら、それで」
「どういう意味だよ?」
これで二度目となる「オジサン」呼ばわりに、苛立ちを覚えながら。俺の語気が、自然と強まっている。
「そんな顔しないでよー。どうでもいいじゃない、そんな話」
舐めきったような女の態度が、否応なく俺を苛立たせた。
くっ……このガキ。
だが、この程度で取り乱すのもどうかと思い。大人の俺は、グッと湧き立つものを抑えた。
そう、相手はおそらく自分の半分程度しか生きていない小娘。俺は優しく微笑むと、今度はできるだけ柔らかな口調で訊ねた。
「わかったよ。じゃあ、一つだけ教えてもらおうかな。君はあの公園で、一体なにをしてたんだい?」
はっきり言って、それも別にどうでもいい。だがこうして貴重な時間と金(牛丼代、きっと俺が払うんだろうし)を浪費した以上、せめて納得のいく理由くらいは聞いておきたかった。