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ほんとのうた(仮題)

第1章 孤独(ひとり)と逃避(ひとり)


   ※   ※


 ガツガツ、ムシャムシャ、バクバクバク――ゴクリ。

「……」

 女がなにかを食する姿を、これ程までに不愉快に感じた経験は、少なくとも俺にはなかった。

 ここは、牛丼屋。時間はもう深夜の二時を回ろうとしている。

「ぷはっ、美味い!」

 特盛の牛丼を一気に掻っ込むと、女は幸せそうに満面の笑みを浮かべた。

「なあ、お前は――」

 ようやく話ができると、声をかける俺であったが。

「オジサン、いならいの? じゃあ、いただきまーす」

「オ、オイ……」

 まだ紅しょうがを乗せたまま手つかずの牛丼(並盛)を俺から奪うと、女は躊躇なくそれを捕食していった。

 なんなんだ、コイツは……?

 俺は間抜けにポカンと口を開け、また女の豪快すぎる食事風景を見守った。

 そうして眺めた女は、当初の予想通りまだ若かった。そして、たぶん美人でもあるのだろう。目の前にしながら、その容姿を”たぶん”としたのは、イメージの問題である。

 いくら整った顔立ちをしていても、牛丼を貪るその姿はマイナス要素が著しいのだ。その上、椅子に立膝にした右足の行儀の悪いことと言ったら……。

 礼節にうるかった俺の祖母が生きていたのなら、説教くらいでは済むまい。きっと納屋に閉じ込められて、反省するまで二時間は出してもらえないレベルだ。

 なぜ、俺がこんな目に……?

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