
ほんとのうた(仮題)
第5章 騒々しい景色の中で
真の存在は、とにかく際立つ。仮に歌手としての彼女を知らない人であっても、はっと惹きつけるようなオーラがあるのだ。その意味では、地味な田舎街の中にある方が否応なく目立つと思われ――。
その点、訪れていた巨大ショッピングモールは、休日となれば県内外を問わずに多くの人々が集う場所だ。
当然ながらその中には、ファッションに傾倒している多くの若者たちの姿――殊に女性たちは派手で煌びやかに着飾り、自らを鼓舞するように闊歩してゆく。
すなわち逆にこっち方が、真が際立つ恐れが少ないとの判断であり。もちろん、元々噂が生じていたS市を出ることも、その一因となっていた。
「わあっ! 広ぉーい!」
駐車場に車を停車し降り立つと、真は感嘆の声を上げた。各種ブランドショップが長く軒先を並べる様は、確かに壮観。その一点においては、都会とは異なる地方ならでは利点が生かされているといえるようだ。
このような場を訪れテンションを上げる真の姿は、その意味で同世代の女の子とやはり大差ないのだろう。無邪気に喜ぶ顔を見れば、それはそれで俺とて悪い気はしなかった。
だが軽く微笑みを浮べつつも、やや窘めておくことも忘れてはいけない。
「オイオイ、あんまり騒いで目立つなよ……」
「わかってるって。ホラ、行こうよ」
真は俺の腕を引き、ぐんぐんとその歩を進めた。
買い物にこの場を選んだ理由は先に述べた通りであるが、それは俺の希望的観測であり根拠には乏しい。
実際、人混みに紛れて行くと真ほど豪胆でない俺は、人の群とすれ違うたびに肝を冷やしていた。
『あれ、天野ふらの、じゃない?』
いつ誰かが指を差し、そんな声が発せられるものかと、内心では怯えているのである。
