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ほんとのうた(仮題)

第5章 騒々しい景色の中で


 買い物でいくつかの店を見て回ること小一時間。とりあえず今現在、俺の中の不安は杞憂に終わっている。

 各々が目的を有しこの場に集う多くの人々にとって、一見して珍妙な歳の差カップル(じゃないけどね)など別に興味の対象にはなり得ないようだ。そうとわかればこの俺にしても、次第に緊張感と警戒心を和らげてゆく。

 真の方はと言えば、そんな人の気も知らずに、初めから気兼ねなく意中の品々を物色することに余念がなかった。

 だがそれで、愉快にお買いものという感じでもなく。真はともかく、つき合わされている俺の方にしてみたら、そうに決まっていた。

「オジサン、次――向こうの側の店、行くよ!」

「わ、わかったから……そう急ぐなって」

 俺と真の間には、フィジカルとモチベーションの二つの面で、大きな格差を有していた。自然、徐々にそのペースに着いて行けなくなった俺は、店の外で待ちぼうけとなる時間が増えていくことになる。

 それにしても、若い女は出費が嵩むわい……。

 どこぞのパトロンよろしく内心で冗談めかし、真の入った店の前一人佇みながら俺が苦笑を浮かべた時だった。

「おやぁ、新井さんでは、ありませんか!」

 その声と共に、俺の右手から近づいてきた人物を見る。

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