ほんとのうた(仮題)
第5章 騒々しい景色の中で
「あー、いたいたぁ。もう、どこ行ったかと思うじゃない――アレェ?」
その妙に甘ったるい声を発して、太田の二の腕にしがみついたその女は、俺の顔を見るなり徐に首を傾げている。
彼女の名は――亜樹。
敢えて俗的な言い方をすれば、彼女は俺の“元カノ”ということになるわけだが……。
「……?」
その奇妙な組み合わせを前に、俺は量らずも唖然としてしまうのだった。
バー勤めをしているやや派手な外見のその女は、俺が無職になった途端、気持ちの良いくらいあっさりと見限ってくれていた。調度、公園で真と出会う、その直前の話である。
と、一応そのような流れを踏まえつつ、当の俺は些か冷めた目をして二人の様子を眺めていた。
「おっとぉ……これはまた、不味いところを」
太田は俺の顔をチラリと見るや、バツが悪いとばかりにそう呟く。でも内心では、口ほどに「不味い」と思ってもなさそうだ。
一方で――
「ええ、うそぉー! お久しぶりだねぇ。元気にしてたぁ?」
亜樹は俺の存在に驚きつつも、まるで悪びれた雰囲気は皆無である。実に適当で軽い挨拶を、一応は口にした。どうでもいいが、そんなに久しくはねーよ……。
「いやぁ、ホントつい最近のことなんですよ。なんとなく、こんな感じになりましてですねー。あははは……」
なんら具体性のない言葉を連ねる太田は、俺と亜樹が付き合っていたことも知っていたはず。
会社の飲み会で時々亜樹の勤める店を利用していたから、双方にも元々面識はあるのだ。
聞いてもいない言い訳をグダグダと口にしながら、太田は自分にしなだれ甘える亜樹にデレデレと鼻の下を伸ばしている。