テキストサイズ

ほんとのうた(仮題)

第5章 騒々しい景色の中で


「……」

 俺はその光景を心の底から馬鹿らしく思いながら、死んだ目をしてイチャつく二人の姿を仕方なく眺めていた。

 そう言えば先日顔を合わせた時、去り際に太田がなにやら思わせぶりな感じだったのは、このことを匂わせていたのかもしれない。

 だが、待てよ――と、俺は考える。

 俺が亜樹と別れて、まだ一週間足らず。その後に仲良くなったにしては、随分と醸し出す空気に新鮮味がないような気が……いや、そうだろうな。

 おそらくこの二人は、もっと以前からの関係――それがあったから、亜樹もあれだけあっさりとして――

 というよりも、俺が会社を辞めたこと自体、太田から事前に聞かされていたのではあるまいか。

「先輩、どうか悪く思わないでくださいね」

「……」

 そんなこと太田に言われるまでもなく、どうもこうもない。否、ショックがまるでないと言えば、変に強がるみたいでそれも嫌なのだが……。

 しかし、ともかく。今、俺の前に存在しているカップルについては、はっきり言って一切の関心が失せてゆく。

 相応のいい大人でありながら浮かれているその姿が、実に見苦しく思え俺を心より呆れさせてくれた。

 それが二股であろうが流行りの(?)NTRであろうが、せいぜい好きにやってくれればいい。

 そう内心で吐き捨てた俺には、二人に文句を言うつもりもないし、当てられて悔しがる気持すらなかった。

 だから、そんなこと――しなくてもよかったんだぞ。

 俺はこの直後に、そう思うことになる。誰に対してと言えば――それは、もちろん。


「ユウジィ、お待たせー!」


 ユ、ユウジ……!?


 背後から俺の下の名を呼ぶその声の主は、一瞬で周囲の空気を一変させようとしていた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ